INTERVIEW: Her Self-Nourishment

料理家・渡辺有⼦さん(後編)

Text&Edit:Eriko Azuma
Photo:Ko Tsuchiya

季節を感じ素材に向き合う。料理と服作りの共通点。

SAYAKA DAVIS(以下SAYAKA):洋服の素材となるコットンやウールは自然の恩恵を使わせていただくわけですが、それって料理と同じなんですよね。最近は季節をもっと意識してきたいと思っています。洋服も着物のように、4シーズンだけじゃない季節の楽しみ方が提案できたらなと。

渡辺有子(以下渡辺):料理も4つの季節だけじゃない、中間の部分が面白いんです。例えば秋の名残と冬の走りの食材の組み合わせ。4つに分けられない、季節の出会いや移ろいに情緒を感じます。そういう季節の表現ができるのが、料理の楽しいところですね。

SAYAKA:ご家庭のお食事はどんな感じなんですか?

渡辺:これまでは仕事の料理と家の料理にまったく区別がなかったんですが、今は子どもが野菜を食べないという壁にぶつかっています。子どもが食べてくれるものを、亀の歩みのようにちょっとずつちょっとずつ。何か嫌いなものをこっそり入れると好きだったもの自体も嫌いになっちゃうので、すごくオドオドしながら思考錯誤しています。家で使える品目が少ないので仕事にも影響してきたり…。今まではにんにくを使う料理をほとんど作らなかったのですが、息子のメニューにこっそりにんにくを入れると、コクが出るからかよく食べてくれるんです。夫が作る料理はよく食べていてちょっとショックで。何を使ったのか聞くと「にんにく結構入れたよ」って言ってて。そっかにんにくってやっぱり美味しいんだなと思って、最近連載の撮影でにんにくを使ったら、編集の方に「どうしたんですか、何か心境の変化ありましたか?」って聞かれました(笑)。

SAYAKA:確かに、有子さんのレシピって生姜のイメージですけど、にんにくを使ったお料理もまた新鮮です。私もコロナ前はオフィスを借りて通勤していたのですが、ロックダウンになってからはステイホームで仕事していたんです。そしたら気分が変わるじゃないですか。今去年デザインしたものを見直すと、リラックスムードで発想が家ベースだったなと思います。私は自分に素直にしか物が作れないので、変化も受け入れてその時に自分から出てきたものに素直になるしかないなと。

渡辺:わかります。だって自分から出すものだから、それ以上でもそれ以下でもない。私も子どもに作ったものをそのままレシピ化したこともあります。普段の延長のほうが、料理に説得力が出るのかなと思ったり。かっこつけても始まらないしなって。

「整える」ことは自分を保つ儀式のようなもの

SAYAKA:有子さんの生活で大切にされているモットーはなんですか?

以下渡辺:淀みのない生活にしたいと思っています。滞っているものがないように、いつも風通しをよくしていたいんです。たとえ寒くても窓を開けて空気を入れ替えたいですし、人との関係、生活空間、自分の気持ちも、全部に風通しをよくしておきたい。今考えると、20代30代の頃って部屋の隅っこで膝を抱えてうじうじ悩んでいるタイプだったんです(笑)。そういうのって淀んでますよね?(笑) 今は淀んでいていいことって何もないなと思っています。

SAYAKA:今の有子さんからは想像できないですね!

渡辺:風通しをよくしておきたいので、家も整えておきたいのですが、今は3歳半の息子がいるので思うようにいかないこともあり、見て見ぬふりをする日もあります。でもだんだん見て見ぬふりをすることがストレスになったりするので、空いた時間に仕事場から家に帰って、息子も夫もいない隙に一気に片付けることもあります。そうしないと自分が保てなくて。家族がいるところで掃除をするのではなく、自分ひとりで一気に整える、儀式みたいな感覚です。

SAYAKA:著書『すっきり丁寧にくらすこと』に朝の掃除から1日を始めるとあったかと思うのですが、今もそうですか?

渡辺:今はできてません、はい(笑)。仕事をやりくりして作ったひとり時間でカフェに行く時もあれば、その時間を掃除にあてる日もあります。頭も空間も整うので、私にとっては必要な時間なんです。ぐちゃぐちゃした空間ではぐちゃぐちゃしたことしか生まれないと思っていて。本当に単純なことなんですけれど、すっきり整ってさえいればいいアイディアが生まれると思うんです。

SAYAKA:すっきり整えたい気持ちはあるのですが片付けが苦手で、忙しくなると一気にリズムが崩れて部屋も乱れてしまうんです。

渡辺:よく考えれば、使ったものを元に戻せば散らからないはずなんです。引き出しから出したものは引き出しにしまえば、テーブルや床に余計なものが散乱することはありません。たとえば通販で荷物が届いたとき、中身だけ出してダンボールの片付けは後まわしになりがちですよね。私もダンボールを片付けるのは好きじゃないのですが、空のダンボールが視界に入るほうがストレスになるので、荷物が届いたらまず中身を出して、ダンボールを片付けてから本体のお楽しみを開けるようにしています。そういうふうにルールを作ってクセにすれば絶対に片付く。

SAYAKA:そうやってクセをつけておけば、忙しい時でも整った空間をキープできそうですね。溜め込んでしまってから片付けると、時間もかかりますものね。

渡辺:そうなんです。掃除も一緒でおおごとになる前にやれば時間もかからない。毎日拭いていればガスコンロもきれいなままで使えるんです。何事も日々の積み重ねですね。仕事も日々の積み重ね。

SAYAKA:そうですね。日々の積み重ねが大事ですね。人ってすぐには変われないけれど、3週間続けるとクセになるって聞いたので、私も頑張ってみたいと思います。有子さんのミニマルな生活にも憧れますが、ものを選ぶ時に大切にされていることってありますか?

渡辺:調理道具にしても器にしても、共通して基準にしているのは、長く使える。ということでしょうか。消耗していくものもあるので一概には言えないのですが、「とりあえず」のものは買わないようにしています。ものによってはメンテナンスしたりして、いいものを長く使うほうが心地よい。例えば包丁ひとつとっても、「とりあえず」と安くて切れないものを使っているといつまでたっても料理が上達しない気がするかもしれません。よい包丁なら、切れ味が全然違うので料理も楽しくなる。子どもの器も、プラスチックではなく作家さんの陶器を使っています。もちろん子どもの手ですから、滑って割れることもあるんですよ。でも陶器が割れるということを教えられるし、子どもにも本物の手触りを知ってほしい。食事の際に器を持ったり、直接口をつけるのは日本独自の文化ですよね。だからこそ本物の感触を、子どもの頃から感じてほしいと思うんです。

ないものねだりはせず、肯定を積み重ねていく。

SAYAKA:私は洋服を装うという事は、自分への愛情表現だと思うんです。衣、食、住は全てそれ然り。対談のテーマでもある“Self-nourishment”は自分を大切にする「栄養の取り入れ方」というような意味なんですけれど、有子さんにとっての“Self-nourishiment”とは?

渡辺:私の場合、日々の暮らしの中の本当にちょっとしたこと。仕事の合間にお茶を飲む時間を作る、好きなお菓子を食べる、生活空間を整える。などでしょうか。ちょっとしたごほうびで自分を労ることで、バランスを保つことができるようになります。

若い頃はちょっとしたことで落ち込んだり、人の言葉に左右されたりしていたこともあったのですが、年齢と経験を重ねたからでしょうか。自分自身も、人のことも否定しないようになりました。今は育児やコロナ禍で出かけられる場所やできることに制限がありますが、あれもできない。これもできないと否定はしたくない。これまでどおりにはいかないと切り替えて、ないものねだりをせずに、できるだけ肯定を重ねていくようにしたいです。

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