INTERVIEW: Her Self-Nourishment

料理家・渡辺有⼦さん(前編)

Text&Edit:Eriko Azuma
Photo:Ko Tsuchiya

どんなに忙しくても⾃分だけの余⽩の時間を

渡辺有子(以下渡辺):以前お会いしたのは4年前でしたね。でもなぜかそんなに久しぶりという気がしないのはなぜでしょう。

SAYAKA DAVIS(以下SAYAKA):私もそんな気がします。インスタグラムをよく拝見しているし、本も読ませていただいているので、なんだかいつも会話を交わしているような感覚です。有子さんのレシピも大好きなのですが、すっきりとミニマルなライフスタイルに憧れているので、そのヒントをいただきたくて本を読んでいます。どうしたらそんなに整った生活ができるんだろうって。

渡辺:今は全然整っていません(笑)。3年半前に息子が生まれてから生活ががらりと変わって子育て中心の生活になりました。なかなか自分の思う様にいかないことも多いので、色々整わなくても仕方ない。と思うようになりました。

SAYAKA:そうなんですね。なんだかそれを聞いて安心しました。その時々で優先順位は変わってくると思うので、それに対応できるほうが心地よくいられる気がします。

渡辺:本当にそうですね。自分でこうでなくちゃ。と決めてしまうと苦しくなってしまう。コロナ禍もあり、時代も変わりましたよね。今までの常識ががらりと変わって、それぞれが自分の考えをしっかり持つことがより大事になってきていると思います。そして柔軟な対応力も必要ですよね。

SAYAKA:柔軟さと自分の芯を持つこと。そのバランスが大事だなと思います。

渡辺:息子が生まれてからは本当に無理をしなくなり、いい意味で力を抜くことができるようになってきました。自分のことを優先できる生活ではなくなったことで見えてくるものが変わってきて、許容範囲が広がりました。
SAYAKA:私のまわりでもお子さんがいらっしゃる方は、自分の時間がないことに悩まれているようなのですが、有子さんはどうされていますか?

渡辺:これまで仕事も生活も自分のペースでやってきたので、私は自分の時間がないとダメなんです。なので実はこっそり時間を作って、どうにかバランスを保っています。今日はお迎えまでにこの仕事をやらなくちゃいけない。でもこの時間までに終わらせればここが空く。そしたらカフェに行こうとか、あそこのクッキーを買いに行こうとか、本当に小さなことなんですけれど、目標を作って集中して仕事を終わらせます。以前はだらだらやっていたんです。終わらなければ夜にやればいいやって。今は限られた時間の中で少しでも自分の時間を作るために、同じ1時間でも全然違う使い方をしています。

SAYAKA:それだけご自身の時間を大切にされてるんですね。

渡辺:SAYAKAさんもそうだと思いますが、私たちって常に考えている仕事ですよね。アイディアを求められ、提案する立場ですが、アウトプットだけを続けるのは難しい。自分の中に余白を作ることも必要です。隙間時間が15分しかなかったら、お店に行くのはあきらめて、携帯もお財布も持たずに散歩に出かけます。何も持たないって結構勇気がいるんですけれど、普段見ていなかった空や木を見上げたり、深呼吸したり。その時間がまた仕事につながっていくと思うんです。

積み重ねてきた経験が⾃分を強くしてくれる

SAYAKA:ただ歩く、空を見上げる、季節を感じるってすごく大事ですね。有子さんのお料理は、季節や旬を感じられるところが好きなんです。シンプルだけど食感や食材の組み合わせに驚きがあったり。でも非日常的な遠い存在ではなくて身近さも感じます。

渡辺:私が料理で提案したいことは、まさに今おっしゃってくださったことなんです。今はスーパーに行けば冬でも枝豆が出ていたり、早々にとうもろこしが出ていたりと、食の季節感がほとんどなくなっていますよね。旬のものを食べるという事は、体が欲しているものを食べるという事。それを感じてほしいと思うので、やっぱり旬のものをいただくことを第一前提に、レシピを考案しています。そして食感を意識したり切り方を変えることで、身近な食材や少ない調味料でも新しいものが生まれる。そのちょっとした気づきを楽しんでいただきたいと思っています。にんじんひとつとっても、素材自体に目新しさはなくても、切り方や火の入れ方で全然違うものにもありますし。ベースがあって、アクセントに何を足したり引いたりしていくか…きっと、洋服作りにも似ているんじゃないかな。そして料理は毎日のことなので、義務ではなく楽しんでいただきたくて、極力シンプルに提案しています。
SAYAKA:レシピはどのように考案されているんですか?

渡辺:食材に何を選んで味をどう落とし込むか、頭の中で組み合わせを考えてレシピを作っています。もちろん昔は作ってみないと分からないので実験を重ねるような感覚で何度も試作を重ねたこともありますが、今では小さじ1単位で味付けの想像ができるようになりました。経験してきたことの積み重ねがようやく今生かされてきて、自分のベースにちょっとだけエッセンスを足せばこうなる。みたいなことができるようになってきたのかな。あまりいろんなものを見てしまうと影響されてしまうので、なるべく料理本等は見ないようにしています。30代の頃は、他の人のレシピが気になり本屋さんの料理本コーナーを見に行って、どんよりして帰ってきたこともあります。見るとすごく疲れて、見なきゃよかったなって。今思うと、人と比べることにすごく左右されている時期がありましたね。歳を重ねていいこともあるもので、人に何をどう思われているか、あまり気にならなくなりました(笑)。

SAYAKA:私はまだ有子さんのようになれていないです。やっぱり今はすごく情報が多いので、どうやったら余計な情報を入れないようにできるか、策を考えているところです。情報に左右されないための心がけのようなものってありますか?

渡辺:これは心がけというよりも、たぶん経験と年齢なんじゃないでしょうか。歳を重ねてよいことって、いい意味で鈍感力というか、おばさん度があがったっていうことですかね(笑)。昔は本当に否定的なことを耳にしたり目にしたりすると引きずるタイプだったんですけれど、今はそんなことを言われても、はははー面白い!みたいな感じで(笑)。自分に自信があるわけでは決してないです。いまだに。SAYAKAさんは若いのでもう少し苦しむかもしれませんが、やるべきこと、やりたいことをきちんとやっていればいいんじゃないかと思うんです。精一杯今出せるのはこれです。っていうことを続けていけば、誰に何を言われてもぶれない。

SAYAKA:そうですね。自分に素直であり続けることが大切なのかもしれません。

渡辺:自分から発信するものに関しては、理由が言えるといいなと思っていて。こういう理由でこのレシピを作って、ここにはこういうポイントがあるんですよって。「どうしてこのレシピなんですか?」って聞かれても、若い頃は「なんとなく美味しそうだから」みたいなことしか言えなかった時もあった気がします。自分が出したものに嘘がなく「だからこれを作りました」という必然性があれば、人から何を言われても強くいられると思うんです。
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