Currency

 CRAFTSMANSHIP

林 ちはるさん / BAGSINPROGRESS(前編)

Text&Edit: Eriko Azuma

ものづくりは、あらゆるものに宿る温度を繋いでいくこと。

時代を超えて育まれた美しいクラフトマンシップに焦点をあて、心動かされる「ものづくり」の背景を紐解きます。

今回は、シンプルで機能的なバッグが、世代や性別を超えて多くのファンに支持されているNY発のバッグブランド『BAGSINPROGRESS』をフィーチャーします。以前より親交の深いデザイナーの林ちはるさんとSAYAKA DAVISのコラボレーションが実現。互いの「ものづくり」への想いを大切にしながらディスカッションや試作を重ね、特別なバッグが誕生しました。

前半は『BAGSINPROGRESS』のブランド哲学について、後半はSAYAKA DAVISとのコラボレーションについて、デザイナー林ちはるさんのインタビューを2回に分けてお届けします。

誰が使っても生活になじみ機能的、ありそうでないit bagを作りたい

今を生きる私たちの必需品やライフスタイルに合った、使い勝手のよい“ツールバッグ”を作りたいという思いからスタートした「BAGSINPROGRESS(バッグズインプログレス)」。

デザイナーの林 ちはるさんはニューヨークに留学後アパレル企業に就職、商品企画担当としてキャリアを積みながら、自身のバッグブランドを作りたいという思いを温めてきた。

元々ヴィンテージのミリタリーバッグやインダストリアルバッグが好きで愛用していたものの、デザインや風合いが好みでも使いづらさを感じることが多かったという林さん。好きなデザインのバッグを現代のライフスタイルに合うようにアップデートできないか?と思うようになったのが、バック作りを始めたきっかけだったそう。

「皆さん複数のバッグをお持ちの中で、気付いたら毎日使っているバッグがあるのではないでしょうか? そのバッグは、おそらくライフスタイルや日々の用途に合っているから使い勝手が良く、結果的に頻繁に持ち歩いているのだと思います。市場にバッグはたくさんありますが、自分に合うバッグというのは限られていて、いざ探してみてもありそうでない。そんなバッグを作りたいと思っています」

使い込むほどに気付く良さがあり、持つ人それぞれのスタイルで自由に使えて毎日持ち歩いても飽きのこないバッグ。アジャスタブルな持ち手、たくさんのポケットなど、一見シンプルなデザインには、使う人に寄り添うための機能やアイディアが詰まっている。

コンセプトは“Minimal design with maximum functions”

無駄を省いたシンプルなデザインは、シーズンレス、タイムレス、ジェンダーレス。合わせるスタイルやシーンを選ばず、長く愛用できるデザインに、2way機能はもちろんのこと、特にポケットに関しては、持つ人が自由な使い方ができることを想定しながら、形やサイズを厳選しているそう。

「携帯電話やPCは数年に一度アップデートしますよね。それに合わせて使いやすいバッグのサイズやポケットに求める機能も変化すると思うんです。昔はお医者さんのためのドクターズバッグ、牛乳配達員のためのミルクバッグなど、職業に合わせてバッグが作られていましたが、現代の多様なライフスタイルのニーズに応えられるような“ツールバッグ”が目標です。一番最初に作った「キャリーオールトート」は、大きなサイズでポケットを多数搭載し、ストラップもアジャスタブル。マザーズバッグとして重宝してくださる方もいれば、デザイナーの友人は、洋服のパターンがすっぽり入ると愛用してくれている。それぞれの用途で自由に使っていただけることが喜びです」

デザインのインスピレーションはビンテージバッグやミリタリーバッグ、インダストリアルバッグから。ニューヨークの日常の中、地下鉄やバスに乗車中は、人々が持ち歩くバッグやその使い方を観察し、そこからアイディアが浮かぶことも多いのだとか。日々の気付きや時代のニーズをさりげなく機能として落とし込む。そしてその細かなディテールは、熟練の職人たちの手によって商品化される。

関わる人全員がハッピーになれるものづくりを

バッグのデザインと企画はニューヨーク、製作は日本とアメリカが半々。長い付き合いのある工場のスタッフとは積極的に意見を交換し、信頼関係を構築してきた。 「デザイナーの一方的なこだわりは無理や無駄につながるので、職人さんたちの意見を聞きながら、できるだけ無駄のないものづくりを目指しています。長いお付き合いの職人さんから、無駄を省いて価格を下げるためのアドバイスをいただくことも。私自身のやりたいことと、現場の効率化の落とし所を見つける過程も楽しい。そうして生まれたものがヒットすると、私もうれしいし工場の方も喜んでくれる。いいものが作れたら、お客様にも長く愛用していただけます。時々、使い込んでクタクタになったバッグの写真が添付された問い合わせメールをいただきます。好きすぎてまだまだ使いたいので修理の仕方を教えてほしいとのこと。作り手にとってこれほどうれしいことはありません」